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衝撃的な 『クリエイション・レコーズ物語』
2003/10/04 05:13:45 | mojix
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一部でウワサのクリエイション本、ついに発売。帯には「オアシス、プライマル・スクリーム、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン」という3つのバンド名、そして小山田圭吾(コーネリアス)の推薦文があるが、この本はきっとあなたのイメージを裏切る、爆弾のような本だ。
原著の題名は、 『This Ecstasy Romance Cannot Last: Alan McGee and the Story of Creation Records』というもの(中身を読むとわかるが、この題名はとてもいい)。著者のパオロ・ヒューイットはかつてイギリスの音楽紙「メロディ・メイカー」「NME」に在籍し、多数の著書もある音楽ジャーナリスト。
「クリエイション」といっても、一般の人は知らないかもしれない。帯に「オアシス、プライマル・スクリーム、マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン」と書かれ、小山田圭吾の推薦文があるのは、多くの人にこの本を手にとってもらうためにはぜひとも必要だろう。それにしても、これは音楽本としてはちょっと普通じゃない。
この本は、特にクリエイションについて予備知識がなくても楽しく読める。しかし、クリエイションやそこに所属していたバンドについて知っていれば知っているほど、このほとんど狂った小説みたいな内容のドキュメンタリーが、ほんとうに「あのクリエイション」の物語なのかと、ショックなくらい楽しめるはずだ。この本の内容は「すべて真実」だというから、なんとも衝撃的だ。
とはいえ、この本は実に軽く読めるし、衝撃というよりはむしろ爆笑本に近い。著者パオロ・ヒューイットは自分ですべて書くのではなく、アラン・マッギー(クリエイションのオーナー)をはじめとするクリエイション関係者(およそ十数人)にインタビューし、その肉声をそのまま拾うという方法を選んだ。これは見事に成功しており、多くの登場者が面白いエピソードを次々に披露、特に圧倒的なのがこの本の半分を占める、クリエイションの張本人アラン・マッギーの話。もう止まらない「いくらでもしゃべる」モードで、まさにすべてが「語り尽くされる」感じだ。
例えば、ガイ・チャドウィック(ハウス・オブ・ラブ)のエピソード。<ガイ・チャドウィック以上にロックンロールすることは、とんでもなく難しいよ。あのモンスターみたいな奴のことなんだけど。(中略)チャドウィックの場合、「マッギー!」って叫ぶから振り返って見ると、自分の脱いだシャツを頭に巻いて、下半身をさらしてるんだ。もうこうなると、「この変態野郎、治療が必要か?」とか言いたくもなるよ。>ハウス・オブ・ラブの音楽を知っている人は、ただ驚くしかない(ガイ・チャドウィックのこの手のエピソードはマッギー以外の口からも出てくるので、間違いないらしい)。
また、その完成のために数千万円を費やし、クリエイションを倒産寸前に追い込んだと言われるマイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『ラヴレス』のエピソードなども克明に語られている。「やっと『ラヴレス』を聴いたとき、どういう気持ちだった?」という著者の質問に対し、アラン・マッギーはこう答えている。<怒ったよ。敵意を抱いたね。クソみたいに扱われて。ケヴィンと仕事することがどんなに大変だったか、説明しようと思ってもしきれない。ディックに頼んで、このアルバムのためにディックの家を再び抵当に入れてもらわなければならなかった。ぼくは、自分の口座のお金をすべて使い果たしてしまっていたから。インディーのアルバムに二七万ポンド(注:約5千万円)も使ったんだよ。それほど多くの固定ファンもいないバンドなのに。ディックやぼくは、個人としても破産しそうな勢いだった。>。
本書ではこの調子で、何百、何千ものエピソードが語られる。子供の頃からの友達だったボビー・ギレスピー(プライマル・スクリーム)との関係、マッギー自身のドラッグ生活ぶり(クリエイション関係者はドラッグ漬けが多かったようだ)など、すべてがどんどん語られていく。いかにもシリアスに書かれているのではなく、ひたすら軽い調子のインタビュー形式で書かれているからこそ、よけい胸にひびく感じだ。
<この本には、struggle‥‥苦しみながらなんとか進んでいくことが表現されている。とんでもなく愉快だけれど、それ以上に、これはすべて真実なのだ>(アラン・マッギーの序文より)
著者パオロ・ヒューイットは、クリエイションに心酔しておらず、距離を置いて見ている。その距離が取材を成功させており、また本書をただの音楽本に終わらせない、ドキュメンタリー的な完成度を与えている(もちろんジャーナリストとしての力量も大きいだろう)。
そして、この本の訳・監修者としてはこの人以外考えられない伊藤英嗣。気取らない感じがストレートに出た、読みやすい、さわやかな日本語がすばらしい。そしてこの日本語版だけの特典は、氏によるとんでもなく膨大な注釈だ。全ページにわたってページの下の部分を走るこの注釈だけで、80年代インディーズ音楽の辞典になりそうだ。
個人的には、クリエイションはかつての自分がもっとも夢中になったレーベルだったので、この本を一気に読み通して、思うことはたくさんあった。この本を読んでしまったあとでは、クリエイションのレコードを聴き返しても、以前と同じように聴くことはもうできないだろう。しかしそれでも、この本を読むことができて良かった。
クリエイションを知っている人はもちろん、クリエイションを知らない人でも、音楽が好きでたまらない人なら、きっと心にひびく本だと思う。こんなにリアルな「人間」を感じさせる本はめったにない。
書籍データ
書名:クリエイション・レコーズ物語
著者:パオロ・ヒューイット
訳・監修:伊藤英嗣
出版社:太田出版
定価:1,900円
ISBN4-87233-759-X
関連リンク
太田出版 『クリエイション・レコーズ物語』のページ
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